緑風の記 
文・司馬拓也 (C) / 随時更新
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   回文歌集『愚年輪』について
2006/09/29
 世の中にはすごい人がいるものだと感心することがよくあります。先日、ある方から贈呈された回文歌集『愚年輪』という自費出版の小冊子を手にしたときもそうでした。著者は生前、三重県松阪市にある本居宣長記念館の初代館長(昭和45年〜50年)をつとめられた山田勘蔵氏で、この本では可笑舎鹿尾(をかしやしかを)という回文の筆名を用いておられます。

 自序によれば、著者は60歳を過ぎてから狂歌とともに回文歌にも親しまれるようになったとのこと。主にご家族や身辺雑事を対象にして満80歳までに詠まれた約1500首の回文短歌のうち、厳選した 120首に長谷部文孝氏の紹介文、細見克治氏の現代語訳付き解説文を添えて、著者のご子息の山田雅重氏が刊行したのがこの本です。

 回文形式で短歌を詠むということは大変難しいことですが、この本の著者が晩年になって他に類を見ることができないほど非常に優れた短歌をこれほどまで詠まれたことは、限りなく奇跡に近いといっていいと思います。これがほとんど世に知られていないということはきわめて残念であると同時に、たとえ世に知られずともこのように上質の文芸が地方都市に存在していることに、日本文化の厚みと伝統の力を改めて感じました。

 ところで、長谷部氏による紹介文のなかに書かれていた次の文章は、著者への何よりのオマージュのように思え、その温かな感性に感動しました。

   高齢化社会の到来で、老後をどう生きるかが模索される時代だが、『愚年
  輪』は一つの答えを示していると思う。それは約二十年間にわたる晩年を廻
  文歌をつくりながら過ごしたおかげで、作者の人生が満月のように丸く完結
  したという印象を作品から受けるからである。

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