流水の記 
文・司馬拓也 (C) / 随時更新
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 『般若心経は間違い?』について
  2007/08/26

 『般若心経は間違い?』
 (アルボムッレ・スマナサーラ著、宝島社新書)

 著者は、テーラワーダ仏教(パーリ語で Theravada =上座部仏教)の立場からこの本を書いています。言い換えれば、「大乗非仏説論」の観点から『般若心経』の内容の正誤について検討し解説したのがこの本です。
 『般若心経』は、わずか262文字という短さの中に仏教の最も大切な教えがぎゅーっと凝縮されているという評価によって、読経においても写経においても、日本人の間で最も人口に膾炙(かいしゃ)した仏教経典と言われています。
 さて、問題はこの本の著者が指摘しているように経典の内容です。「色即是空」は釈尊本来の正しい教えであるけれども、「空即是色」は論理的に誤りであるという著者の指摘などは、「なるほど、そういわれてみれば確かにそうだ」と気づかされます。また、釈尊の教えの根幹となっている「四聖諦(ししょうたい=4つの真理)」や「十二因縁」について、『般若心経』は「無」という言葉をつけてことごとく否定しています。その点については、空の哲学を説いた『般若心経』の性質に鑑みて、私は「仏陀の根本教理でさえも、究極的には執着せずに忘れ去るべきものということだろう」などと漠然と解釈していました。その解釈の背後には「至言は言を去り、至芸は芸を去る」という東洋的世界観があったように思います。しかし、この本に書かれている解説を読んでみて、確かに『般若心経』の内容や話の展開にはいろいろと無理があるように感じられました。
 ともかくも、『般若心経』を題材にして、「空」と「無」の違い、「空」と「無常」の関係など、仏教の根本教理にかかわる様々な概念や考え方、そして実践の重要性が開示されているという点で、この本から学ぶことは多いと思います。


   

 『英語学習 7つの誤解』について
  2007/08/26

 『英語学習 7つの誤解』
 (大津由紀雄著、生活人新書、NHK出版)

 この本を読む意義を一言で表すとすれば、英語学習に関して巷に氾濫している「幻想」を払拭し、英語習得の重要ポイントとしてあたかも常識のように思い込まされている「妄想」から解脱することです。これは最新の科学的な研究成果を踏まえて、一般人向けに冷静かつ論理的に書かれた本であるため、良識とバランス感覚のある内容の正当性に納得がいきます。
 本の後半には、達人たちの英語学習法の紹介や、外国語学習の正否に影響を与える3つの要因についての解説などが記載されています。これから高いレベルの英語力を身につけようとしている方々にとって、これらは貴重な参考になると思います。
 本書の中で、学習英文法の重要性が繰り返し述べられているのは、まさに英語学習指南の王道といえるでしょう。


   

 『カラー版 ブッダの旅』について
  2007/08/26

 仏教の創始者、釈尊ゆかりの地を文章と写真でたどる本です。釈尊生誕の地である現ネパール領ルンビニーをはじめ、出家、修行、成道、そして45年間にわたる説法をしたインド各地に釈尊の足跡を追い、現在の風景描写を交えつつ往時の様子を偲び、釈尊にまつわる有名な説話の数々を紹介しています。美しいカラー写真の効果もあって、仏教の源流に漂う奥深い精神世界の厳かな清々しさや懐かしさといったものが、読み進む間に胸のうちに静かに満ちてくるのが感じられます。
 巻末(pp.183-201)には前田專學氏による「ゴータマ・ブッダ ── その人と思想」と題する解説文が掲載されています。これは仏教の一番のエッセンスを分かりやすく簡潔にまとめたもので、「仏教とは何であるか」ということを一気に手っ取り早く知りたいと思っている方々には、最適なガイドになると思います。


   

 『無思想の発見』について
  2006/05/11

 『無思想の発見』
 (養老孟司著、ちくま新書)

 常識と思われている物の見方、考え方を逆転する事柄がいろいろと書かれている本であるが、最も強く感じたのは、この本が近代西洋文明がもたらした近代的自我の呪縛を解く決定的な鍵を与えてくれたということである。意識がすべてであるという観念論はもう捨て去らねばならないだろう。個性とか独創といったものを尊重するのはよいが、その実態をよく見直し正しく対応しなければならないだろう。封建的として一蹴されてきた伝統的な日本文化の多くの要素を改めて再評価しなければならないだろう。長い歴史の中で世間の人々の経験と知恵によって積み上げられてきた日本のシステムを、風土と伝統を無視した場当たり的な借り物の思想でなし崩しにしていくことはもうやめなければならないだろう。そのようなことをこの本を読んで考えた。


   

 『超バカの壁』について
  2006/04/24

 『超バカの壁』
 (養老孟司著、新潮新書)

 世間で常識と思われている認識の中には、実際には真実でないものがいろいろとあることが、この本を読むとよくわかる。日頃薄々そうではないかと直感的に思っていたことには明快な言語化によって裏付けが与えられて「やっぱりそうなのか」と自己の洞察を改めて確認できたし、今まで考えてもみなかったことについては新たに教えられて「なるほどそうだったのか」と目から鱗が落ちる思いがした。そうした認識にかかわることばかりではなく、この本は人生の価値の問題や、著者が経験を通して得た処世の機微にも触れた内容が盛り込まれていて、奥が深い。いずれにしても、意識万能の都市化社会(脳化社会)が広がりすぎていることに、現代の危うさの根本的な問題があることは確かだと思う。


   

 『国家の品格』について
  2006/02/21

 『国家の品格』
 (藤原正彦著、新潮新書)

 この本は最近だいぶ話題になっているようだ。近代西洋文明を成立させた基本理念である自由・平等・主権在民という、いわば戦後民主主義日本の常識ともいえるものに対して、この本の著者は痛烈なアンチテーゼを提示している。現在の世界を覆いつつあるアメリカ型価値観によるグローバリゼーションの弊害を認識し問題の根本的な解決を探る上で、この本は有力な思考材料を提供しているといえるだろう。また、この本は読者が日本の伝統や文化の値打ちを知りその美しい働きを見直すことを促している。進行しつつある日本社会の荒廃に歯止めをかけるために何が必要なのかを考えるヒントとして、この本は有意義だと思う。


   

 『日本語 表と裏』について
  2006/02/08

 『日本語 表と裏』
 (森本哲郎著、新潮文庫)

 日本語に興味をお持ちの方なら、一読して決して損をすることはないと断言していい本である。合計24の語句や表現をテーマとして取り上げ、それらの言葉を生み出した背景を探る試みの中で日本文化の特性や日本人ならではの心性を浮き彫りにしている。
 この本を読むと、「よろしく」「やっぱり」「お世話さま」など普段何気なく使っている言葉に、さまざまな思慮や人間関係、文化的な傾向が織り込まれていることに改めて気づかされる。すぐれた洞察力と解明の手腕を持った著者に導かれて、日本語による表現の幅の広さと奥の深さを思い知らされることは感動的である。


   

 『バカの壁』について
  2005/10/01

 『バカの壁』
 (養老孟司著、新潮新書)

 新書として史上空前の累計発行部数を記録している本なので読んでみた。なるほど、400万部もの印刷を重ねているだけのことはあると思った。現代人を惑わす様々な呪縛の霧を打ち払って、本来もつべき視界を開いてくれる本だった。
 私が特に「ごもっとも」と思ったところを少し挙げると、たとえば次のような認識の提示がある。
 ──基本的に世の中で求められている人間の社会性というのは、できるだけ多くの刺激に対して適切なaの係数を持っていることだといえる。(P.39)
 ──学問というのは、生きているもの、万物流転するものをいかに情報という変わらないものに換えるかという作業です。それが本当の学問です。(P.164)
 ──人間であればこうだろう? という話、本書冒頭で述べた「常識」が、私は究極的な普遍性だと思っているのです。(P.202)


   

 『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』について
  2005/09/29

 『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?──身近な疑問からはじめる会計学』
 (山田真哉著、光文社新書)

 この本はすでに発行部数が100万部に達したらしい。それほど面白い本なのかと興味を覚えて読んでみた。私は複式簿記も財務諸表も一応は心得ているので、このような入門のための入門書に何か目新しさはあるのかと思ったが、それがいくつもあった。この本の著者はたいへんな知恵者のようだ。会計学的な世界の切り取り方というものを、意外性に満ちた実例を挙げながら誰にも分かるような言葉で生き生きと解説しているところが、実に巧みだと感じた。7つのエピソードのそれぞれの末尾に添えられた「まとめ」も、手際の鮮やかさが現われていて、ポイントが一目瞭然となるところは小気味がよい。


   

 『英語を学べばバカになる』について
  2005/09/27

 『英語を学べばバカになる──グローバル思考という妄想』
 (薬師院仁志著、光文社新書)

 21世紀の国際社会において、日本が勝ち組になるための世界戦略の一つとして「英語公用語論」を唱える人々がいる。この本は、その論者に対して痛烈な批判を展開している。
 ところで、この本のメインタイトルは、必ずしも中身と合致しているとは思えない。そもそも「英語を学べばバカになる」などという命題は、常識的に考えれば成り立たない。手っ取り早く言えば、論理の飛躍を含んだ乱暴なタイトルだが、私がそれに目を引かれてこの本を開いてみたことを思えば、書店の売場でこの本を目立たせるためのタイトルとしては十分な効能があったと言える。このようなタイトル付けを思いついたのは、おそらく著者ではなく編集者ではないかと憶測している。
 さて、メインタイトルの問題はともかくとして、内容そのものは、目から鱗が3枚くらい落ちたかと思えるほど教えられることがあった。私自身はすでに英語を学ぶためにかなりの労力をかけてしまった日本国民の一人なので、英語学習に多大な時間とエネルギーを注ぐことに否定的な見解を示されても今更後戻りするわけにはいかないが、それでもこの著者の論理と主張には「なるほど」と頷ける部分が多々あった。この本を読んで特に気づかされたことは、日本人の物の考え方がどのくらい大規模にアメリカナイズされてきているかということだった。
 この本の副題である「グローバル思考という妄想」という言葉からも察することができるが、グローバル思考と言いながら、その実はグローバルというよりもアメリカの基準やライフスタイルなどに追従しているに過ぎないという状況がある。それで日本国民が本当に幸せになれるのか。一歩離れたところから伝統的な日本の文化や価値観との親和性を考え合わせながら、今後の日本のあるべき姿を模索する必要があるように思う。


   

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